南方ボケと現地化
昔、フィリピンで仕事をしていた時、今は亡き祖父から「南方ボケに気をつけろよ」と言われたことがある。祖父は戦時中、海軍整備兵としてパプアニューギニアのラバウルに駐屯していた経験がある(しかし、よくあんなとこにいったもんだ。当時の日本人はすごい)。
気候の変化がなく、寝ていても食べ物が手に入る南方の国に派遣されると、バカになってしまう日本兵が大勢いたのだという。
これを言われた時は「そんなことあるかいな」と笑って受け流したものだったが、人間は驚くほど環境に影響されるというのをその後何度も目の当たりにした。外国暮らしが長いとその国の風習に(時として)毒されてしまうのだ。
欧米の学校を出て、あちらでの暮らしが長い人は自己主張が強く日本型組織になじまないという話を聞く。また、中国に住んでいた日本人も、中国化する印象を受ける。
例えば、私の元同僚は西安に留学経験のある中国語の通訳で、中国人実習生の監理をしていたが、やたらと疑い深かった。例えば会社から自分が昇級されても「この次は絶対手当を削ってくるぞ」「この昇級の裏で会社は●●を企んでいる」とか。
中国人実習生は「騙される方が悪い。騙す方は悪くない」というらしいが、まさにそれを念頭に置いて生きている人だった。まあ生来性格が悪かっただけかもしれないが(笑)。
反面、万事のんびりしたフィリピン長く住むと本当に前述した南方ボケになる。
駐在員はともかく、現地でよく分からない仕事に就いている人はおかしい人が多い。例えば、フィリピンパブのネーちゃんの尻を追いかけ、挙げ句の果てに沈没しているおっさんはその際たるものだ。
昔、何かの取材でこの類のおっさんと話をした時にこんなやり取りがあった。
私「どうされたんですか?」
おっさん「いやー、アコ(私)のアサワ(妻)がメロン(いる)でしょ。それで・・云々」
私「いや、僕日本人ですから日本語で話して下さい(汗)」
といった具合だ。日本語変換能力が退化しているのだ。日本語もフィリピン語もおかしくなっている。
また、先月所用でフィリピン在住の日本人経営者(これもおっさん)を新大阪駅に迎えに行ったのだが、「駅北口で待ち合わせ」といってもこのおっさんは辿り着けない。
「周りの誰かに聞いてこちらに来て下さい」とこちらが電話で指示すると、「聞いてみたけどわかりませーん」みたいなことを平気で言ってぼーっとしている。60歳前のおっさんがである。脳が退化しているとしか思えない・・。
確かにあちらに住んでみると、時間通りに物事は進まないし、税率や制度など公式な情報を入手するのも一苦労だ。段取りが全てという日本人の感覚を持ったままだと頭がおかしくなるだろう。気持ちはわかる。
だが、現地に進出した場合、悪い意味の現地化をしないことは我々日本人の大きな強みとなる。
私は現在、フィリピンで会社を設立中だが、この日本のサービス水準を可能な限り維持できれば、だいぶ面白いことができると楽しみにしている。今後日系企業がアジアに進出する際の強みは、この「当たり前にちゃんとやる」ことだと思う。
あの国で実行するのはものすごく難しいのだけど・・。