ドゥテルテはトランプか?(その1)
フィリピン大統領選挙が終わった。
現在も開票作業が続いているようだが、大統領はここでも何度か取り上げたドゥテルテ氏に決まりそうだ。
しかし、欧米や日本においてこの新大統領の報道され方にはいささか疑問を覚える。ドゥテルテ氏の暴言癖を取り上げてひたすら「フィリピンのトランプ」と言ったり「親中派だ」と煽るメディアばかりだからだ。
新聞社の内情に多少の知識がある立場から言えば、トランプと紐付けて報じるのはいささか無理のあるこじつけだと思う。おそらく書いている記者自身、それは承知のはずだ。
欧米や日本など先進国の読者はフィリピンの大統領選挙なんて村長選挙並みの関心しかない。そこで記者は考える「どうやったらデスクに取り上げてもらえるか」「どうやったら記事のクリック数を増やせるか」そこで思いついたのが「トランプ」というキーワードである。
ドゥテルテ氏の暴言を取り上げトランプと結び付ければそれで記事の購読率は上がり、書いた記者の給料も上がる。記者からしたらドゥテルテがどれだけトランプと似ているかなんて関係ないのだ。どうせ村長選挙だから。
だが、これは乱暴すぎる切り口で、本質を見誤る危険が高い。欧米メディアは日本の記事にすぐに「ヤクザが背後にいる」という論調で報じるらしいがこれも同じ。読者に媚を売る記事を書くのは最低だと私は思う。
たしかにドゥテルテは過激な発言をする。
しかし、フィリピンは民主主義の失敗国家なのだ。縁故と格差がひどく政府は腐敗し、犯罪者はロクに捕まらない。10年前なら2万円くらい払えば殺し屋を雇える(今は値上がりして10万円くらいか?)国なのだ。
わかりやすく言えば私自身、殺し屋を雇うか、死体を丁寧に埋めればあの国で誰かを殺しても捕まらない絶対的な自信がある。警察はバカばっかりだし、金を払えば裁判も思うがままだからだ。
こんな国でアメリカ型民主主義が最高といった考えは無駄である。そもそも貧乏人に生まれた時点で命はゴミのように軽い。
「犯罪者の処刑」は先進国から見て暴言かもしれないが、実際に南部ダバオ市の治安改善に成功した事実は魅力的だ。家族の隣近所にシャブ中がおり、警察官に強盗されるニュースに接する彼らから見たら治安改善の公約だけでも魅力的に聞こるはずだ。
こういう視点をしっかりと捉える分析になっていないことが残念である。
やたらと「親中派」と書く日本のメディアもどうかと思う。確かに親中派の大統領が生まれたという記事にすればクリック率は上がるだろう。日本人は中国には潜在的な不安を覚えているからだ。
だが、彼は「中国との対話」を希望していたり「中国人の血を引いているから中国とは戦争しない」という発言もあるが、「ジェットスキーで(領土問題がある)南沙諸島に行ってフィリピンの旗を立ててやる」という発言もしているのだから簡単に親中派とは言えないと思う。
まあ、とは言っても親米一本調子ではないようなので、こちらの点はもう少し様子を見る必要がありそうである。(続く)