ドゥテルテはトランプか?(その2)
ドゥテルテ支持者の熱狂ぶりは凄まじい。集会では同氏が汗を拭ったタオルを支持者が奪い合い、フェイスブックで批判でもしようものなら即炎上してしまう。熱狂と言って良い。
だが、私が思うに、ドゥテルテに一番近いのはトランプではない。「自民党をぶっ壊す!」と気勢を上げた小泉元首相だろう。
ドゥテルテは選挙演説で「フィリピンはどうしてこんな(ダメな)国なんだー!」と叫ぶ。さらに、会場の近くにある中央郵便局建物を指差し、「みんなこれに不満だろう?俺が壊してやる!」と煽る。国民は大歓声だ。
ちなみにフィリピンの郵便局は荷物を盗んだり、無くしたりと皆辟易している。かの国でネットショップの普及率は低いが、その理由は郵便局のレベルの低さにあるとおもう。ちなみに同じ東南アジアでも、ネット販売が活況なベトナムなら少なくとも国内配送はきちんとやる。
彼はそんな国民の潜在的な不満をストレートに表現する。分かりやすい過激な発言で煽る手法は小泉劇場そのものである。
また、フィリピンは今でも南部ミンダナオ島で独立、自治を望むイスラム勢力との内戦が続いている。貧しい地域なので、新人民軍(NPA)と呼ばれる共産ゲリラとの武力闘争も激しい。国軍とイスラムゲリラ、NPAが三つ巴で紛争を繰り広げる地域。それがミンダナオ島だ。
だが、過去ドゥテルテ氏が市長を務め、同氏の娘が現職市長を務めるダバオ市はミンダナオ島だけでなく、フィリピンで一番治安の良い街として知られている。自前の処刑団で犯罪者を消しまくったことが治安改善手法としてセンセーショナルに取り上げられるが、それだけでない。
イスラム教指導者とは対話を重ねつつ、「私の8人いる孫のうち半分が(婚姻などで)イスラム教徒だ」と宗教の違いに寛容さを見せる一方で、共産ゲリラのキャンプを訪問し「私は社会主義者だ」と彼らの信条に共感を示してみせる。
(フィリピンではイスラム教徒は差別の対象。敬意を表する政治家は珍しい)
彼は実際にイスラム教の代表を市政に招いているし、政府軍との衝突で負傷し捕虜になったNPA幹部への治療費を寄付したこともある。両組織ともドゥテルテ氏の大統領就任は歓迎しているようで、長年にわたって殺し合いを続けてきた関係に明るい兆しが見えている。
(共産ゲリラの信条に理解を示す異色の側面も)
言行一致、硬軟おりまぜたその手腕は特筆に価する。
このような手腕を地方都市の市長で見せた人物は記憶にない。トランプなどと比べるのはフィリピンに失礼だろう。貧困層だけではなく、インテリからも支持されている理由はここにある。(つづく)