ドゥテルテはトランプか?(その3)
では、実際にどのような変化が期待されるだろうか。
アキノ現大統領になって以来、フィリピンの経済成長は目覚ましい。ここ5年で経済規模的には倍増したくらいの感覚がある。
しかし、急成長の立役者であるアキノ前大統領の人気は驚くほど低い。選挙ではアキノ氏の後継者であるロハス候補はボロ負けしてしたほどだ。
(選挙前はアキノ氏をミニオンズに例えてバカにする画像がネットで溢れた)
理由としては持つものがますます栄え、持たないものとの格差はより一層広がったからだろう。結局国民の4割が貧困層と言われている状態は続く。
中間層は確かに急増した。英語力と通信環境の進歩から発達した欧米外資系コールセンターでは現在34万人が働いていると言われる。彼らの給料は最低で月5万円。月10万円以上貰っているものも珍しくない。
しかし、ここ5年間の産業や市場の成長に比べ、行政サービスに真新しい進化はない。私の知人女性は昨年、高校生くらいの年齢の複数の男にアパートに押し入られ、財産をすべて失った。警察の捜査能力は相変わらず皆無に等しいのでもちろん犯人は捕まらない。
(右側は現金輸送車で、防弾チョッキにライフルを持っているのは警備会社の社員。これくらい重装備でないとこの国では大金を運べない)
社会保障も貧弱で、中間層に成り上がっても大病や事故で働けなくなれば、一気に貧困層に逆戻りだ。
インフラ開発も追いついていない。渋滞は10年前の5倍くらい酷くなったように感じるが、首都圏を走る電車(モノレール)は当時から2本しか増えていない。今ではマニラ首都圏内の移動に片道4時間かかる時もある。
真新しい日本車に乗れる中間層が増えたとはいえ、エアコンのないジプニー(乗り合いバス)での通勤を続けるものが過半数だ。渋滞がきつくなった分、むしろ辛かろう。
ネット上でこう言った不満が渦巻く中で、現れたのがドゥテルテなのだ。
だが、ドゥテルテ氏はいわば橋下元市長や石原元知事のような一都市の改革派リーダーで、国政での実践はない。よって経済政策や外交においては未知数だ。
また、国政では周りとの「バランス」が求められるのはどこの国も一緒である。
先日マニラで現地の日本人経営者と話していたが、正直、治安が少し良くなる以外の変化はないとみているようだ。
フィリピンの政治は財閥一家が家業でやるもの。ドゥテルテ氏は質素な自宅を公開するなど他の豪族政治家との違いを強調しているが、実は父親は元知事でいとこは代々セブの市長と名家の出。結局のところ既得権益層との関係もガッチリと残っているはずだ。そういえば、小泉氏も政治家の息子だった。
(選挙では質素な自宅を公開し、清廉さをアピールする戦略を展開。大成功した)
就任後は外資規制緩和や連邦制、農地改革など抜本的政策に言及しているが、わずか6年の任期でどれだけに改革が期待できるのか?となると疑問である。