フィリピン実習生とアレコレ

フィリピン技能実習生にまつわる雑感です。現場から見た外国人労働者との関わり、特定技能ビザの問題についても記します。

フィリピン人受け入れに成功する秘訣

これまでこの業界に10年近く携わってきたが、面白いのはそれぞれの企業に社風があるということだ。1日に何社もいろんな会社を回るので余計に違いが際立って見える。

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中小企業では概ね社風=社長の人柄だ。厳しく、笑わない社長の会社はやはり皆、暗いし、逆に明るく優しい社長の下では社員も和気藹々としている。

 

また、武道では「弟子は師匠の悪いところから学ぶ」というが、新参者である実習生は特に悪いことをすぐに真似するものだ。

 

そこで私の考える受け入れに成功する企業、失敗する企業を分析してみた。

 

うまくいかない例その1

・社員の年齢ピラミッドが崩壊し、高齢者しかいない企業

取引先の建設会社は社長は40代と若いが、現場の班長が3人しかいない。この会社に20代のフィリピン人2名を入れているが今ひとつうまくいかない。

 

理由としてこの班長が全員50歳前後であることが原因だと思う。

 

皆、経験20年以上のベテランだから腕は申し分ないが、もともと建設業に一人親方だった人たちが、昨今の社会保険加入義務強化を受けて嫌々ながらサラリーマンになった人ばかり。

 

この歳まで気楽な一人親方を続けてきた建設現場の職人さんは人を育てた経験も、育てられたこともあまりない。

 

だからミスをしたらすぐに罰金を取ろうとしたり、ひどい時には自分がパチンコで負けたからと実習生から金を借りようとする(もちろんクレームを会社につけていずれの行為も止めさせた)。つまり、「やってはいけないこと」がずれてしまっているのだ。

 

個人個人は悪い人ではないのだが、現場では気難しいし、ミスを厳しく怒った後は必ずケアする、みたいな体育会系の良い指導もできない。というか理解できないのだ。

 

ただ、気持ちはわかる。私もマニラで働いていた時、私を含め現地採用の若い日本人は数年で帰国してしまう。だが、現地在住の日本人上司は繰り返し帰国する若者に一から教え、一から信頼関係を作ることに徐々に疲弊していた。

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上司が30代ぐらいまでの若いうちはそれでも楽しんでやっていたが、40を過ぎるとこういう若者を指導し続けることに疲れてしまうのだ。

 

だから現場の班長さんが悪いというわけではなく、バランスの良い年齢層で構成されたチームを作れなかったトップの責任とも言えるだろう。

 

逆に言えば実習生と近い年齢層の若い日本人がいる会社は比較的関係も良好だ。飲みに行ったり、遊びに連れて行くのは同年代のほうがお互い楽しいに決まっているし、自分ができない時代を覚えているから指導もしやすいのだ。

 

 

 

うまくいかない例その2

・夜勤がある企業。

「うまくいかない」というと語弊があるかもしれない。残業・夜勤があると実習生の失踪や途中帰国の確率は急減する。なにせ夜勤があれば手取りは確実に20万近くに跳ね上がる。残業のない基本給だけで仕事している実習生の倍近い差が出るからだ。概ね実習生は喜んで働いている。

 

その反面、夜勤の現場では日本人が少ないため、働く実習生はどうしてもコミュニケーションが希薄になる。大きな工場になればサボりやすいし(これはフィリピン人に限ったことではない)、必然的にダレた態度になりがちなのも事実だ。

 

日本人と遊ぶことも減り、部屋にこもってフェイスブックをしたり、同胞同士でつるむため日本語も伸びない。髪の毛を染めるなど見た目や態度も悪くなる。

 

入国時に「将来は日本語の先生になります!」と目をキラキラさせていた優秀な人材が夜勤のある企業に配属された結果、日本語検定も受けず、フィリピン人の彼女と遊んで3年間を無為に過ごす例がどれだけ多いことか。もちろん金はたんまりと稼いではいるのだから本人はそれで良いかもしれないが・・。みていて釈然としない気持ちになる。

 

反面、残業がほとんどない昼勤務のみの企業でも、会社の人がしょっちゅう遊びに連れて行ってくれ、日本語教育も応援してくれた結果、見違えるように成長する例もある。

 

元実習生を使いフィリピン事業を立ち上げた会社はほとんどがこのパターンである。日本語はもちろんだが、責任感を覚え、下手な日本人よりも仕事ができるようになるフィリピン人はごまんといるのだ。

 

うまくいかない例その3

・総務があまり優秀ではない企業

取引先の企業で古い会社寮を持っている企業があるのだが、設備が古いのでしょっちゅう故障する。故障はしょうがないのだが、この対応に問題がある。

 

とにかく対応が遅い。もしくは忘れたりするのだ。

 

実習生受け入れでは意外に大切なのが総務関係で、寮のトラブルから病気まで会社によって対応がだいぶ違う。

 

だがいくらフィリピンでひどい生活をしていたとはいえ、彼らも人間である。誠実に対応し、快適な住環境を作ってあげれば感謝もするしパフォーマンスも上がる。

 

また、寮の雨漏りのようなトラブルを迅速に対応することは、彼らの仕事上の指導につながるのだ。「日本人がきちんとやるのだから、君らもやりなさい」と背中を見せることができるからである。日本人が適当な対応をしているのに彼らに厳しくするのは不公平であるし、響かない。

 

当社の取引先でうまく行っている会社は、実習生の病気や怪我の時は、工場長が直々に病院に連れて行ってくれる。もちろん組合通訳も行くのだが、病院待合室で偉い人があれこれ話かけてくれるのは嬉しいし、安心するものだ。

 

この工場は百人規模なので本当はめちゃくちゃ忙しいはずなのだが、この工場長はそんなそぶりはまったく見せず、待合室で雑談してくれている。

 

フィリピン人は「義理と恩」の概念があるので、こうされると弱いのだ(ちなみにベトナムや中国はカネが全てなのでフィリピン人ほどはこれが効かないことを留意されたい)。組合通訳だけが病院に連れて行くとこの「恩」は組合スタッフに向いてしまう。企業の偉い日本人がわざわざやっていることがポイントである。

 

 

これらを踏まえてうまく行くコツは単(ひとえ)に「彼らのために時間をどれだけ使ってあげるか」に限ると思う。一見非常にめんどくさいし、効率悪そうに見える。

 

だが、フィリピンでは社員旅行や社内パーティといったイベントは非常に重要視されている。特に欧米系のコールセンターなどでは転職や引き抜きが横行しているので、2週間に一回はアメリカ人上司と食事会をもうける会社もあるほどなのだ。

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そしてフィリピン人はこういうイベントをめちゃくちゃ楽しんで参加する。

 

信頼関係があるフィリピン人は無理をきいてくれたり、頑張って結果を見せようとしてくれる。逆に「俺は、俺」とフィリピン化されると仕事を怠けたり嘘をついたりとろくなことはない。だから「飲みニケーション」に時間を割くのは結果的に良い効果を生むのである。

 

日本で絶命つつある体育会系というか、家族ぐるみで面倒を見るという古い会社文化の良い面を残す企業こそフィリピン人に適していると言えそうだ。