フィリピン実習生とアレコレ

フィリピン技能実習生にまつわる雑感です。現場から見た外国人労働者との関わり、特定技能ビザの問題についても記します。

特定技能ビザで起きる危機(その2)

前回は今年4月に新設される特定技能ビザで来日した外国人が、人権を盾に妊娠や出産にまつわる社会保障制度を悪用したり、日本企業に訴訟を起こす懸念に言及した。

 

 

人権に配慮した特定技能ビザは外国人労働者の妊娠時、強制送還させることが難しくなっている。

 

働かせるつもりで呼んだのに、妊娠された挙句に訴訟をチラつかせて居座りたいだけ居座られ、日本国民の血税で培われた社会保障にタダ乗りされてしまう可能性がある。というのがその内容だ。税金もろくに払わないうちから保険や手当を使われまくったら、国庫の負担にしかならないのに、である。

 

この他にも考えられるトラブルがズバリ「ジョブポッピング(頻繁な転職)」と「違法外国人ブローカー」だろう。

 

先日関西でラジオを聴いていると「今日で今の仕事について10年目です。よく続いた自分を褒めてあげたい」的な読者コメントが読み上げられ、ラジオDJも「素晴らしい!」と称賛していた。

 

だが、この価値観は日本独自なのだ。

 

例えば台湾では「1日の稼ぎがあれば人には使われるな(起業しろ)」と言うくらい中国人は独立心が強い。ベトナム人も所詮中国人と同類なので同じ考えである。

 

「サラリーマンはダメなやつ。できないやつがやるもの」と相場が決まっている。

 

また、フィリピン実習生も履歴書を見るとだいたい1年から2年で仕事を転々としている。3年以上1カ所で働いているものは珍しいといえる。

 

かように海外では1カ所で長く働くことを称賛する文化はない。

 

むしろ「転職先がないダメなやつだからずっと同じ会社で働いているのだ」とみなされてしまう。

 

彼らの理想は、「少しでも給与のよい会社に素早くどんどん転職していく」か「自分で会社を起こして一国一城の主になる」この二つである。

 

だから就職してすぐに転職することや仕事を転々とすることに罪悪感はない。というか、コロコロ転職することは成功だと考えている。ちなみに「立つ鳥跡を濁さず」なんて言葉は海外にない。目先の利益のためなら平気で砂を引っ掛けて去っていく。

 

実例を挙げよう。私自身、フィリピンの日系人を工場に派遣する仕事に携わっていたことがある。地方だったので、工場は郊外。運転免許のない日系人は仕事に行きたくてもいけないのだ。

 

そこでドライバーを手配し、工場に送迎&派遣するサービスを立ち上げてみた。

 

最初は良かった。工場の経営者からも喜ばれるし、フィリピン人も「Xさん(私のこと)のおかげで仕事が見つかった」と笑顔だった。

 

ところが、1年も経たないうちに雲行きが怪しくなる。

 

やれ給料が安いだの、仕事がきついだの文句ばかり垂れるようになる。つい数ヶ月前とは人が変わったようだ。

 

ご存知の通り日本の製造業の現場作業は1年や2年で給料が激増することはない。会社から見たら最初の半年は下積みみたいなものだからだ。

 

だがこいつらはそう考えない。なにせ1カ所で働き続けることは「悪」なのだ。

 

虎視眈々と転職先を探し続け、時給の良い大手パン工場などに次々に転職していった。合計7人ぐらいを派遣したが3年後に残ったものは0人だった。

 

転職もそうだがそのやり方がまずい。「父親が危篤なのでフィリピンに帰ります」と嘘を付き、信じた経営者から香典をもらった上で近所で働くのだ。恥も外聞も無いとはこのこと。実に汚い。

 

だが、こんな経験は外国人を雇ったことのある会社はほとんどが経験済みだろう。統計で外国人を今後雇いたくないといった会社は6割を超えている。こんな経験をすれば嫌になるのはわかる。

www.hokkaido-np.co.jp

したがって実習生制度が転職を認めなかったのは素晴らしいルールだったのだ。

 

ところが特定技能ビザでは転職を認めるという。

 

愚かである。現在公表されている情報によれば特定技能ビザは5年間のみである。外国人労働者はそもそもビザの期間内でどれだけ稼げるかに専念する。

 

この結果何が起きるか。答えは簡単、入国してすぐに東京など都会の時給の高い会社に一斉に転職するのだ。地方はたちまち人不足に逆戻りだ。

 

「東京は物価が高いから敬遠される」と考える地方の経営者がいるが、甘い。

 

バカなメディアは報じていないが、技能実習生制度は一人3畳以上のスペースをもつ寮を会社が用意することが定められている。もちろんエアコンや家電付きだ。実は手厚い制度なのだ。

 

彼らが母国でどんな生活をしてきたか見てみるがよい。日本の実習生の寮なんざ天国である。

 

しかし、特定技能ビザはどこに住もうが外国人の自由だ。金さえ安ければ路上で住むことも厭わない連中に好きなところに住んで良いと言うのだ。

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香港の路上でダンボールハウスを作り、くつろぐフィリピン人家政婦。

 

こんなことを許せば、東京でも大人数で部屋をシェアし家賃負担を減らすに違いない。もちろん、賃貸契約違反だが、そんなことを気にする生き物ではない。

 

実際に出稼ぎ目的で来ているベトナムや中国人語学学校留学生の生活を見てみると良い。6畳一間を6人でシェアするなんて当たり前。

 

特定技能の労働者も自ら望んで劣悪な生活環境に住んで家賃を抑え、東京で稼げるだけ稼ごうとするのは目に見えている。

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中国の工場労働者寮。これがスタンダードなんだから実習生寮なんて天国だ。

 

実習生制度の方が、労働ビザより健全かつ人道的になる逆転現象も起きるはずだ。

blog.livedoor.jp

話を戻そう。

 

人出不足に悩む地方の会社が喜んで特定技能ビザで外国人を雇ったとする。おそらく面接時に「ハイ!私は5年間シャチョウの会社で働きマス!」なんて言いながら入国直後に東京に飛ぶケースが頻発するのは間違いない。上記の方法で生活費を圧縮できるなら都会に行かない手はないし、転職の自由を認めたらやりたい放題だからだ。

 

先日岩手県に行ったがレストランの時給はなんと750円だ。外は雪だらけ。こんなところに望んで働く外国人はいない。

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だから航空券などを払って特定技能ビザで外国人を入れても「嘘をつきまくって入国→平気な顔で即日都会に全員転職」というトラブルが頻発するに違いない。地方の企業は阿鼻叫喚だろう。

 

 

人権にうるさい欧米先進国もこの問題は経験済みだ。オーストラリアは移民を都市部に制限する法律を検討している。日本は完全に周回遅れの後手に回っていると言わざるを得ない。

newsphere.jp

(続く)