フィリピン実習生とアレコレ

フィリピン技能実習生にまつわる雑感です。現場から見た外国人労働者との関わり、特定技能ビザの問題についても記します。

フィリピン選挙と若き民主主義

このほどフィリピンで中間選挙が行われ、ドゥテルテ大統領支持派が大きく議席を伸ばした。盤石の体制を整えたと言えそうである。

 

日本では知られていないが、人治国家フィリピンの選挙は実弾(カネ)が飛び交うお祭りイベントだ。努力不要、才能不要でコネが全てのこの国では、売票が公然と行われている。

 

一般大衆にとってはお小遣いを増やすいい機会だし、あわよくばコネを得て甘い汁(仕事や賄賂)にあずかりたい。

 

こんなクズどもがの欲望渦巻くイベントなので、銃を持った支持者間で文字通り実弾が飛び交うシーンも度々繰り広げられるのだ。

 

選挙がらみの死人は必ずと言って良いほど出るので、投票日は酒類の売買が禁止され、毎度日本大使館が外出を控えるよう勧告を出すほどだ。

 

中間選挙に伴う注意喚起)

https://www.ph.emb-japan.go.jp/itpr_ja/00_000832.html

 

月給2、3万円の国でありながら、上院議員選では2億ペソ(4億円)の資金が最低でも必要と言われており、田舎の市長クラスでも2000万円ぐらいの現金がいるという。

 

この金を使って一人あたり500Pから1000Pで票を売買することは公然と行われている。金を投票用紙にホッチキスでとめたり、役場で配られたりと、あの手この手で現金がばら撒かれる。

 

 

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候補者の名前と現ナマがホッチキスでとめられて配られるケース

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お菓子で釣るケース(笑)

 

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上院議員選挙の結果。4億円の現ナマを用意できる大富豪ばかり。


金をばらまいても「実際に誰に投票したかわからないのでは?」と不思議だったが、投票所にスパイがいて、誰が誰に投票したかチェックしているのだという。嘘をついて金をくれた候補者に投票しないと「選挙後に家が『立ち退き』で壊される」と知人は言っていた(笑)。

 

流石にマニラ首都圏では減ったようだが、地方ではこういうことが公然と行えるのだ。

 

この国では政治はさらにえげつないほど「家業」と化している。安倍首相や麻生太郎がトップを務める日本も馬鹿にはできないが、特に地方では親父→嫁→子供・・・と市長をたらい回しにすることが公然と行われている。さながら江戸時代である。

 

今回の上院議員選挙の結果を見ても、トップ当選したシンシア・ビリヤール議員はフォーブズにものったフィリピン一の富豪の嫁はんである。これまでは旦那が上院議員だったが、任期満了につき、嫁が引き継いだのだろう。

 

この太ったおばはんの首都圏ラスピニャス市の長を長年勤めていた親父を持ち、自身も跡を継いで市長を勤めていたらしい。親父の後を継いで市長になり、旦那の後を継いで上院議員にトップ当選というわけだ。だが何をしたのか、誰も知らない。おそらく国民は「大富豪の嫁」としか見ていないのだろう。

 

 

おかげで選挙後は「移民」の検索ワードがトップに上がったと言われている。結果に絶望し、国を捨ててまともな国に移住したいと考える人がそれだけ多いのだろう。

 

そら、周りの大多数が自分の権利を千円前後で売ることに血眼になっているのを見たら、まともな神経ではいられない。私の知人もインテリほど選挙に期待なぞせず、冷めた目で見ている感じがする。

 

とはいえ、今回の選挙で明るいニュースもある。地方自治体レベルでは若く教育程度の高い当選者がちらほら見えるのだ。

 

例えば首都圏パシッグ市では1992年から5期連続でエウセビオ一族が市長の座をたらい回しにするふざけた状態だったのだが、このたび国民的コメディアンの29歳の息子、ビコ・ソト氏が勝利した。

 

他にも首都圏マニラ市の市長に44歳のイスコ・モンテロソ氏が勝利。前職で元大統領の大物、エストラダ氏(82)を破る番狂わせだった。

 

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新市長は子供の時はスラム街のゴミ拾いをやっていたという苦労人。イケメンでスピーチを聞いていても、弁舌さわやかだ。

 

ちなみに、前職のエストラダ氏はフィリピン史上もっともアホな大統領といってもよく、日本で言えば森元首相に当たる。元トップ映画俳優という経歴を生かして政治家に転身したが、勝新太郎みたいなめちゃくちゃな人物だった。

 

違法ギャンブルの収益を得ていた疑いで略奪罪に問われ、大統領の座を追われた後にしぶとくマニラ市長に返り咲いていたが、性懲りも無くマニラ動物園内にギャンブル目的の闘鶏場を設置すると発表するなど相変わらずのパッパラパーぶりを見せていた(こういうのも森元首相に似ている・・・)。

 

しかし、モンテロソ氏は就任後のスピーチでマニラ動物園解体を明確に否定。ようやくまともな人が市長になった気がする。

 

 https://www.philstar.com/nation/2019/05/20/1919217/isko-moreno-no-plan-sell-manila-zoo

この他にも26歳の元モデルや21歳の新卒が市長に就任するなど日本から見たら驚くほど若いリーダーが登場している。若い人物は旧態依然の汚い政治にも毒されておらず、新しいテクノロジーにも明るい。フィリピンを変える可能性を持っていると言える。

 

https://www.philstar.com/nation/2019/05/19/1918988/pangasinan-elects-youngest-mayor

 

我が日本も60歳以上の政治家には人数制限するなど年齢別の枠を設けてはいいのではないだろうか?今はダメでも変わることを恐れないというのは大きな強みであり、それを可能にするのは若さなのだから。