慰安婦報道と実習生報道
昨今の実習生報道を見ていて非常に気になることがある。
徴用工や慰安婦の問題は昨今の実習生報道と似通っているように感じるのだ。
断っておくが、私は太平洋戦争の激戦地フィリピンにしばらく住んでいたので、歴史的に見て先の大戦を日本軍がアジア解放のために戦った正義の戦争という産経新聞的な視点には与しない。
その側面はあったことは間違いないが、自国だけがおいしい目を見たいという欲望渦巻く植民地争奪戦に参入したのだから、大義名分はともかく内情は醜いものであったに違いない。
欧米よりも貧しい日本が争奪戦に後発組として参加したのだから、当然乱暴なやり方になり、その過程で無茶なことをしたことは容易に想像できる。残念なことにその証言はいくらでも残っている(今の中国みたいなもの)。
ましてや戦時下になれば状況は更に酷くなる。
嫌がる日本人男性も根こそぎ戦地に送られていた時代だ。植民地だった韓国あたりから無理して労働力を確保したケースもあったろうし、軍の性欲を制御すべく、大量の慰安婦を集める過程でひどいことも行われたに違いない。
ただ、この面で確実なことがある、徴用工や慰安婦は日本人と同等の条件だったのである。そもそも公式に非道な制度を法治国家である日本政府が認めるわけはないのだ。
この産経新聞の徴用工についての記事もさることながら、当時の戦記を読めば多額の金を稼いで家を建てようと夢見ている慰安婦の話などが出てくる。ちゃんと給料も払われていたのだ。
とは言え、現代日本における飯場や性風俗産業を見ても、最底辺の肉体労働の業界に雇用トラブルはつきものである。大量の労働力を効率よく確保するには民間のブローカーは必須だが、リクルートの仕方は今も昔も乱暴だし、雇われる側も雇う側もワケありが多い。
時代背景として、戦前は東北など貧しい地方の女性が借金のカタに泣く泣く女衒に売られるのは珍しい話ではなかった。それしか生きる道が無い人が当時はたくさんいたのだ。こういった日本人女性は慰安所で働かされたり、マレーシアを始め東南アジアに「からゆきさん」として売春婦として売られていたのである。
実習生もそうだが、外国で大勢リクルートするなら、地元のブローカーを使わないと集まるわけがない。こんな時代背景を考えれば、日本以上に貧しい韓国の現地ブローカーの所業はよりえげつなかったこと予想される。騙されたり酷い目にあって連れてこられた人もいたことだろう。
そういった業界事情や時代背景を無視して運営を司る日本企業や軍部にすべて責任を押し付けるのは無理があろう。
この論理で言えば、現代日本の日雇い建設労働者や風俗業界のトラブルは全て日本政府の責任になってしまう。そして、業界的に完全にクリーンであることは厳しいのが当たり前なのだ。
同様のことが実習生制度にも言える。
さも残酷に外国人を使っているように報じられているが、実際、これらの業界では日本人と同等の条件で働いているところがほとんどなのだ。
ハローワークに行ってみるといい、岡山では縫製業の正社員募集は月給12万円程度の会社がいくらでもある。地方の建設業では日当が8000円程度のところなんてゴロゴロある。
だから、外国人実習生がひどい目に遭っている企業は昔からこう行った条件で日本人を雇ってきたのである。いわゆるブラック企業だ。日本人社員も似たような待遇なのだ。
こう言ったごく少数のブラック企業がベトナムや中国といった汚い派遣国ブローカーと組むからややこしくなるのであるが、トラブルはしっかり調査して、罰則を設ければよいだけだ。
単純に実習生制度を廃止すれば良いというものではない。
考えてみてほしい。正義の名の下に慰安婦を廃止していたら、占領地における旧軍の乱暴狼藉はよりひどくなったことだろう。徴用工を廃止していれば、徴兵制で男手の足りない銃後の悲惨な日本では、物資不足でより一層凄惨な光景が繰り広げられたはずだ。
同様に実習生制度を廃止し、「人権」を無制限に与えれば失業保険や出産手当などを悪用する外国人労働者に日本は食い物にされることは間違いない。
まさに「薪を抱きて火を救う」行為。正義の名の下に日本を亡国へといざなう報道は見ていて情けない限りだ。