追われる恐怖、追いつかれる恐怖
ここ4、5年フィリピンの経済発展を目の当たりにしていたが、
先日橘玲さんのこの記事を読み、私の考えていることとズバリ一致していると思った。
以前私はフィリピンは経済的に発展しないという持論だった。国内産業がなく、海外出稼ぎ労働者の送金でしか成り立たない構造なので、外国人労働者を受け入れる日本にとっては好都合。日本が労働者を継続的に受け入れるならフィリピンしかないと考えていた。
昨今ブームのベトナムは10年前の中国と同じと言われており、アジア随一の経済成長が続いているため、日本に出稼ぎを希望する人は年々減り続けている。
この現状を知らないのは実習生を受け入れている日本企業だけである。
だが、どうやらフィリピンも思った以上に早くそうなりそうだと恐怖を感じはじめた。
5年後はまだ大丈夫だろうが、10年後はもはや怪しい。
以前、私がフィリピンが伸びない国と判断していた理由は
①教育レベルが低い
英語とフィリピン語および地方言語に分断されているため、統一された母国語が不完全という言語ハンディキャップ。また、「できない奴はほっておけばいい」という米国モデルの切り捨て型教育なので、国民のおそらく8割程度が2桁の割り算や引き算が怪しい。
なまじ英語ができるだけに優秀な人材は海外に出て行ってしまい、国にはダメな人しか残っていない。
②400年前から続く財閥による政治構造
旧宗主国スペイン系や華僑といった1割の財閥が9割の土地を握り、政治は金持ちの家業。コメや鉄も華僑の財閥がカルテルを組んで価格を釣り上げ、庶民は搾取されるがまま。金持ちは脱税も殺人もやりたい放題の法の外で生きていける。
③貨幣経済に向いていない非論理的な思考とのんびりとした民族性
民族的特徴で論理でなく右脳=感情で判断するので、論理的な思考能力が弱い。
自らを律して成長させることよりも、快楽に身を任せ、本能のままに過ごすことを求める人の割合が他国と比べ極端に高いのだ。分かりやすくいうと怠け者。
と見ていた。
だが、近年これを改めねばならないかもしれないと思い始めた。
それは平均年齢24歳という「若い人々のポテンシャルの高さ」である。
良い例が韓国である。私の叔父で大阪でガス設備会社を経営しているものがいるのだが、40年ほど前の高度経済成長期に韓国人をたくさん雇っていたという。
とはいえドヤで拾ってきたようなビザも怪しいゴロツキで、飲む打つ買うしか興味のない民度の低い連中だったらしい。
当時を振り返り、この叔父は「韓国人は嫁がしっかりしている場合成功した。男はダメなやつばっかりや」と馬鹿にして笑う。
つまりは団塊の世代の日本人が貧しかった当時の韓国人に抱くイメージは「自堕落でダメな男。女は多少マシ」なのだ。我々がフィリピンに抱くイメージとまったく同じだ。
だが、今や韓国の経済成長は目覚ましい。
ベトナムやフィリピンといった東南アジアのリゾートは韓国人で溢れており、現地で不動産を買うのは中国人の次に韓国人だ。我々日本人が道をあるいても「アンニョハセヨ」と声をかけられる。
フィリピン人が韓国の工場に出稼ぎで働いた場合の給料は月給18万円程度らしい。社会保険がこれだけ高くなった今、手取り18万もらっている日本人の工場作業員は少ないだろう。
もはや先進国入りした韓国は東南アジア諸国から羨望の眼差しで見られているのだ。
フィリピンも同じで若い人は比較的まともなのが増えている気がする。
送り出し機関のスタッフは夜遅くまで仕事をしているし、責任感も強い。市内中心部の高級外資系レストランならサービスもマシになっている。ため息をつきながら働いている馬鹿者は、まともな店ではもう見かけない(ローカルにはまだ、たくさんいるが・・)。
特に進歩を感じるのは庶民の結婚観だ。20年ほど前は30代で独身の男は間違いなくゲイだった。デブでもハゲでも結婚率は高かった。
エンジニアや教師といった知的労働者の女性が、プータローの彼氏や旦那を養っているという風景をよく見かけた。
カトリック教徒の教義上、避妊が禁止されているため子供は6人前後がざらで、12人兄弟なんてのも見かけた。貧乏子だくさんを地で行っていたものだ。
ところが、近年子供の数は2、3人。教育制度も改善され、高卒年齢は16歳から18歳に伸びたので底上げが始まった。
財閥支配は続いているとはいえ、近年30、40代の地方自治体の長が生まれている。若い世代のエリートはSNSや旅行などで先進国の常識に慣れ親しんでいるため、縁故主義で腐敗したフィリピンを改善しようとする意欲は高い。民度が上がっているのだ。
つい先月起きた火山の噴火でも、避難所が綺麗なテントになっていた。わずか7年前の台風被害では段ボールハウスで雑魚寝を強いられていた国が、である。寄付される支援物資もエコを意識したものが出てきている。つまりは先進国に短期間で近づいているのだ。
取引先のとある企業は「フィリピン人は5年後には日本に来なくなる」と危機感を持っていた。
安い労働力としてフィリピンを見る時代は徐々に終わりつつあるのである。当社も事業のあり方を変えていかねばならないかもしれない。