理想の男性像
私は昭和生まれの九州人なので、典型的な男尊女卑文化で育った骨董品である。
とはいえ、フィリピンで過ごした期間も長いので、日本の男性偏重社会が世界的に見て異常であるという国際感覚も有しているつもりだ。
実際のところ労働力としてみた場合、フィジカルを除けば男女差はさほどない。勉学に関して言えば、性欲をコントロールすることが難しい思春期の少年が勉強に集中する能力は、少女より低くなるだろう。女性には理解しがたいだろうが、男性ならみな静かにうなずくはずだ(笑)。
この点、フィリピンは世界的に見ても女性の社会進出上位の国である。
女性大統領も2名生まれているし、民間企業でも女性の管理職率は58%とはアメリカの42%よりも高いのである(2006年の統計)。ちなみに日本は10%にすぎない。
http://www.gender.go.jp/research/kenkyu/sekkyoku/pdf/h19shogaikoku/sec5.pdf
エリートが集まるフィリピン士官学校の2020年の卒業者の成績上位者10名中5名は女性だった。同学年の196名中女性が23名しかいないことを考えると、どれだけ女性が優秀かよくわかる。
「『女→オカマ→男』の順に雇え」(某日系企業社長)とか、「女はどちらも優秀だが、男が働かない割合はタイよりも断然高い」(タイ駐在経験のある某高級ホテルマネージャー)などと私が実際に聞いた話でも女性上位の事例にいとまがない。
そんなフィリピンで新型コロナからのロックダウンが緩和される中、こんなニュースが出回った。
恋人の自転車通勤に長距離伴走するバイク:
ルソン地方のカビテ州から首都圏マカティ市まで自転車で通勤する恋人の女性をずっと伴走するバイク運転手の姿にネットで称賛の声が集まっている。デニス・トゥラブスさんは普段はバイク配車アプリのアンカスに所属するバイク運転手。6月に入り防疫措置が緩和されてもバイクの2人乗りは依然禁止されているため、彼女を直接職場まで送り届けることができない状況が続く。マカティ市の職場まで安全に通勤できるよう、彼は毎日、彼女の自転車通勤をバイクで長時間伴走しながら見守っている。(6月6日 日刊まにら新聞 大衆紙の話題 より)
郊外からマニラ首都圏に自転車で通う女性に毎日バイクで伴走する彼氏の「美談」だ。
コロナの影響でバスの減便や乗車人数制限がされているマニラでは今、自転車通勤が増えている。そもそも首都圏の家賃は日本の主要都市並みかそれ以上に高いので、労働者は郊外から通勤するのだ。
だが、鉄道がほぼないフィリピンでは、交通渋滞の酷さは世界2位と言われる。東京の鉄道をほぼ全て撤去したらどうなるかを想像していただければわかりやすい。この地獄のような渋滞に揉まれながら、バスや乗合タクシーで2、3時間かけて通う市民も珍しくない。
ただでさえ地獄なのだから、コロナによる制限が加わればどうなるか?おかげで通勤バスを数時間にわたって待ったり、何時間も徒歩で移動する労働者の報道が流れている。
そんなこんなで自転車が流行っているのだが、面白いのは記事を見た国民の反応。「女性に尽くす優しい男」として大絶賛なのだという。
これが日本ならどうなるか?片道2時間近いので往復で毎日4時間は送り迎えに費やすのだ。間違いなく無駄な時間を過ごすダメ男とみなされるだろう。
そもそも男性が、毎日もう4時間必死で働いて彼女にバイクでも買ってあげるなり、地元に転職させればれば良いのである。薄給の運転手稼業でもそれぐらいはできるはずだ。
ところが彼らはそうは考えない。
必死で働きだしたおかげで、彼氏が勤務中に愛の携帯メッセージを送れなくなったり、疲れ果てて毎晩のお勤めができなくなることは「愛していない」と見なされるのだ。毎日無駄に伴走してもらうことこそ女の幸せなのである。
ちなみにこの女性の勤務先はビジネス街のマカティだから収入は間違いなく彼氏より上である。
フィリピン人女性の社会進出の記事を見て、フェミニストっぽい日本のインテリは喜んでコメントするが、背景には働かない男と、それを囲って喜ぶ女性といった日本では考えられない関係性があることを見逃している。そして、情報化社会の昨今ではこういった現実を悟った賢い女性の未婚率が上がっている現実も・・。
発展途上国の統計情報だけを見て安易に判断するのは危険なのだ。