ドゥテルテはトランプか?(その2)
ドゥテルテ支持者の熱狂ぶりは凄まじい。集会では同氏が汗を拭ったタオルを支持者が奪い合い、フェイスブックで批判でもしようものなら即炎上してしまう。熱狂と言って良い。
イスラム教指導者とは対話を重ねつつ、「私の8人いる孫のうち半分が(婚姻などで)イスラム教徒だ」と宗教の違いに寛容さを見せる一方で、共産ゲリラのキャンプを訪問し「私は社会主義者だ」と彼らの信条に共感を示してみせる。
(フィリピンではイスラム教徒は差別の対象。敬意を表する政治家は珍しい)
(共産ゲリラの信条に理解を示す異色の側面も)
ドゥテルテはトランプか?(その1)
フィリピン大統領選挙が終わった。
現在も開票作業が続いているようだが、大統領はここでも何度か取り上げたドゥテルテ氏に決まりそうだ。
しかし、欧米や日本においてこの新大統領の報道され方にはいささか疑問を覚える。ドゥテルテ氏の暴言癖を取り上げてひたすら「フィリピンのトランプ」と言ったり「親中派だ」と煽るメディアばかりだからだ。
新聞社の内情に多少の知識がある立場から言えば、トランプと紐付けて報じるのはいささか無理のあるこじつけだと思う。おそらく書いている記者自身、それは承知のはずだ。
欧米や日本など先進国の読者はフィリピンの大統領選挙なんて村長選挙並みの関心しかない。そこで記者は考える「どうやったらデスクに取り上げてもらえるか」「どうやったら記事のクリック数を増やせるか」そこで思いついたのが「トランプ」というキーワードである。
ドゥテルテ氏の暴言を取り上げトランプと結び付ければそれで記事の購読率は上がり、書いた記者の給料も上がる。記者からしたらドゥテルテがどれだけトランプと似ているかなんて関係ないのだ。どうせ村長選挙だから。
だが、これは乱暴すぎる切り口で、本質を見誤る危険が高い。欧米メディアは日本の記事にすぐに「ヤクザが背後にいる」という論調で報じるらしいがこれも同じ。読者に媚を売る記事を書くのは最低だと私は思う。
たしかにドゥテルテは過激な発言をする。
しかし、フィリピンは民主主義の失敗国家なのだ。縁故と格差がひどく政府は腐敗し、犯罪者はロクに捕まらない。10年前なら2万円くらい払えば殺し屋を雇える(今は値上がりして10万円くらいか?)国なのだ。
わかりやすく言えば私自身、殺し屋を雇うか、死体を丁寧に埋めればあの国で誰かを殺しても捕まらない絶対的な自信がある。警察はバカばっかりだし、金を払えば裁判も思うがままだからだ。
こんな国でアメリカ型民主主義が最高といった考えは無駄である。そもそも貧乏人に生まれた時点で命はゴミのように軽い。
「犯罪者の処刑」は先進国から見て暴言かもしれないが、実際に南部ダバオ市の治安改善に成功した事実は魅力的だ。家族の隣近所にシャブ中がおり、警察官に強盗されるニュースに接する彼らから見たら治安改善の公約だけでも魅力的に聞こるはずだ。
こういう視点をしっかりと捉える分析になっていないことが残念である。
やたらと「親中派」と書く日本のメディアもどうかと思う。確かに親中派の大統領が生まれたという記事にすればクリック率は上がるだろう。日本人は中国には潜在的な不安を覚えているからだ。
だが、彼は「中国との対話」を希望していたり「中国人の血を引いているから中国とは戦争しない」という発言もあるが、「ジェットスキーで(領土問題がある)南沙諸島に行ってフィリピンの旗を立ててやる」という発言もしているのだから簡単に親中派とは言えないと思う。
まあ、とは言っても親米一本調子ではないようなので、こちらの点はもう少し様子を見る必要がありそうである。(続く)
フィリピンウーバー体験記(その1)
バブル景気が加速し続けるマニラではタクシーがつかまらない。
圧倒的に台数が足りないのだ。だから6、7割くらいの確率でぼったくりタクシーに会うハメになる。せいぜい100ペソや200ペソ(300円から600円程度)多めにふっかけてくる類だが、いちいち交渉するのはめんどくさいものだ。
さらに困るのが乗車拒否である。この断る理由が不可解で、「自分の家(行きたい場所)から遠くなる」とか「遠い」「渋滞がひどい」とかわけのわからない理由で断ってくる。まあ目的地が遠いのは初乗り運賃(約120円)を稼ぐのに不便だから、理解できなくもないが、近距離でも断る輩がいる。
4年マニラに住んだ身でもこの断る論理的な根拠がわからない。ドライバーの頭が悪すぎて思いつきで断っているだけ、としか思えない。実際、発展途上国においてタクシーの運転手は最下層の仕事だから、ロクに学校も出ていない動物みたいな輩も多い。
細かい紙幣を用意するのは客の責任で、大きい紙幣を出すと運転手はあからさまに嫌な顔をする。釣り銭がないフリをして金を取ろうとする奴も多い。
周辺人口を含め3700万人の商圏を持つと言われるマニラ首都圏だが、タクシーの数はわずか3000台と東京の8万台に遠く及ばない。慢性的なタクシー不足なのに首都圏を走る電車はわずか4線しかない。公共交通機関が圧倒的に不足している上、バスやジプニー(乗り合いバス)は強盗事件が頻発する。
だから高給取りのコールセンターの従業員など、少し余裕のある人はタクシーを通勤手段に使うようになった。マニラではタクシーは完全に売り手市場だ。バブル時の日本は一万円札をひらひらさせて止めていたらしいが、それが想像できる状況である。
さて、そんな中タクシーを求めてさまようタクシー難民の救世主として一昨年、白タク配車アプリ、ウーバー(Uber)が上陸した。
アメリカで開発されたウーバーは、一言で言えば、白タクをスマホで呼べる配車アプリだ。
今年5月ぐらいまで登録する運転手(ウーバードライバー)募集を兼ねてものすごい額のキャッシュバックを用意したらしく、月に30万円(10万ペソ)近く稼ぐものが続出したという。
おかげで白タクを始めるためにこぞって皆が車を買い求め、一時フィリピントヨタの在庫がなくなった。車が売り切れるなんて在庫管理の天才トヨタではありえない事態だろう(笑)。
だが、そのウーバーバブルは続かない。IT系企業は、ものすごいプロモを売って注目を集め、目的を達成したら一気に通常価格に戻すのが常套手法。
運転手(30)は「以前は週23,000ペソ(7万円)売り上げがあったが、今は半分も行かない」と嘆いていた。
しかし、ウーバーを利用して驚いた。めちゃくちゃ快適なのだ。
例えば、支払いはすべてクレジットカードで、GPSで計算した走行距離に応じたコミッションがウーバーを通して、運転手の口座に入る仕組み。これで我々乗客は釣り銭のストレスから解放されるし、運転手が金を触らないのでぼったくりの危険はない。
ただ渋滞が酷い時間は割り増し計算となる。私が2週間マニラで利用したのだが、平均200ペソ(500円)ぐらい。決して安くはない。通常のタクシーの倍近くかかるようなイメージだ。
だが、20分も30分も灼熱の路上でタクシーを待ち、挙げ句の果てに何台も乗車拒否を食らうストレスを考えれば許容できる金額だ。
(ウーバーの車は日本製が多く、新車ばかり!)
また、ウーバーは乗客から評価をされるので、ドライバーも車の質はタクシーと比べ段違いに良い。特に車はほとんどが購入1年以内の新車だからエアコンの効きは最高だ。
操作はさすが米国製アプリで簡単。目的地を入力して配車を依頼するだけ。ただ、この目的地入力画面への導線がややクセがあり、最初は四苦八苦した。
依頼すると車の位置が地図で表示される。フィリピン人は地図を読めないのだが、そこは安心。イスラエル製の無料カーナビアプリ、ウェイズ(WAZE)を使っているものが多いから、概ねスムーズにこちらに来る。
(カーナビアプリWAZE。英語で音声ガイドが付いている。これで無料・・・)
ちなみに、フィリピンでは日本のように電話でタクシーを呼ぶことはできない(一部の日系タクシー会社は例外)。時間概念がめちゃくちゃで、事務員は半年後に首を切られる契約社員ばかりなので地図なんて読めない。
この配車サービスを人力でやるには
①オペレーターがお客さんの電話に素早くでる(スマホやおしゃべりで時間をつぶさない)。無線によるオペレーターの呼び出しに素早く運転手が反応する。
②オペレーターと運転手、そしてお客さんの3者が場所を口頭で共有できる。
③オペレーターの指示通りの時間を運転手が守る。
と、「オペレーター」「運転手」「客」の3者にある一定の水準が必要だ。
日本では当たり前に行われるのだが、基礎学力が極端に低く、能動的なサービスが存在しないフィリピンで上記の作業を行うのは奇跡に近い。
まず①と③である。タクシーよりもはるかに高学歴で高給取りのフィリピン航空でも、「乗客の呼びだしなんか待たせておけ」とのスチュワーデス同士で言い合っているらしい。
離陸が遅れて(毎日にように遅れる)乗客が機内で缶詰になっても、スチュワーデスは裏で乗客をほったらかして悠々と機内食を頬張るなんて当たり前。知り合いの元同航空のスチュワーデスは「フィリピン航空なんか自腹では絶対に乗らない」と話していた。
フィリピンではかように顧客サービスの概念が低い。
そして、②をするためには全員が地理を把握しているか、地図を読めないといけない。これもフィリピン人には神業に近い。
つまり電話によるリアルタイムな配車はフィリピンでは不可能だったのだ。これをなし得るのは知り合いの日系タクシー会社など数社しかフィリピンには存在していない。
だが、テクノロジーの進化はすごい。スマホの地図でお互いの場所を把握できるならサルで
もできる。また、待たされる側からするとこちらに向かってくるのが見えるのは精神衛生上非常に良い。
(こちらに来るのがわかるから、安心。運転手は悪人顔でしたがいいやつでした)
集合場所を事前にネットで調べるなんて段取りの概念が存在しないフィリピン人との待ち合わせは至難の技だ。足りない知能をテクノロジーが補う形である。
余談だが、フィリピン人に道を聞くとほぼ間違いなく適当に教える。某テレビ局のフィリピン人カメラマンが入っていたが、路上にたむろしている連中に道を聞くとその場にいた数人がてんでバラバラな方向を指さすらしい(笑)。
よって待ち合わせには下のようなやりとりを繰り返す羽目になる。
フィリピン人「どこですか?」
私「●●だよ」
フィリピン人「わかりました」
数分後
フィリピン人「どこですか、わかりません」
私「●●いうたやろ!」
数分後
フィリピン人「今▲▲にいます」
「ちがう!●●やって!」
というやりとりを延々繰り返すハメになる。
続く
次期大統領はダーティーハリー?
フィリピンの将来を担う今年5月の大統領選挙が近づいている。事前の当選予想を民間の調査会社が報じられているが、実はフィリピン人は信じていない。すべてが買収されているので、調査会社によって真逆の結果が出ることなど珍しくないからだ。
ダバオ再訪
フィリピンはなぜ高い?
フィリピンの官僚
実習生と話していて、「フィリピンが貧しいのはナゼか?」と聞くと十中八九「政府が腐敗してるからだ」と答える。